初心者にも解りやすくレンズの収差や画質劣化について簡潔に説明するのは非常に難しく、恐らく誰が書いても100点満点は無理だろう(^^ この文章は後に記事リンクで利用するために書いた。何か忘れている気もするが後で付け足せばいいと考える。なおこの記事の用語はHJCL用語辞典と違って独自用語ではなく公式の?用語だ。


=色収差=
 色収差は色によるピント結像位置の違いだが二種類ある。一つは軸上色収差で色毎に前後のピントずれが起こる収差である。絞ると被写界深度が深まるために見かけ上は改善される。ピント位置のずれでありピンボケなのでデジタルでは補正できない。もう一つは倍率色収差で、これはピント面は同一で周辺に行くほど像の大きさが色毎に異なっていく収差である。当然ながらこれは真ん中には発生しない。色毎の像の大きさを揃えるだけなのでデジタル収差補正が可能である。昔のレンズは色収差はある程度は止むを得ないとされてきたが、デジタル世代では低分散ガラス(ED・SDガラス)の多用によりあまり気にならなくなってきている。

=球面収差=
 レンズ収差の中で最も画質を左右する。レンズが球面である事から必然的に起こる収差であり、レンズの中央と周辺に入射した光のピントを結ぶ位置が前後で違ってくる収差である。正常な光の周りにピントの外れた光がまとわりつくのでこれがハロになる。絞っていくにつれ周辺の光が使われなくなるので球面収差は大幅に改善し気にならなくなる。昔は設計におけるこの収差の補正の仕方に依ってレンズの「味」が発生していた。例を挙げると完全補正(フルコレクション)タイプ・過剰補正(オーバーコレクション)タイプ・補正不足(アンダーコレクション)タイプである。それぞれに良いところがありどれが一番とは言い切れない。60~80年頃のレンズはオーバーコレクションのレンズが殆どで、これは開放でハロが多くソフトだが絞ると突然鮮明になる特徴があった。ピントの移動が少ないために一眼レフでは有用だったのだろう。デジタル世代のレンズでは非球面レンズ等により開放からかなり減少してきている。

=口径蝕=
 ビネッティングと言う。レンズの周辺に入射した光がレンズの鏡胴自身によってケラレ阻害されること。これにより周辺光量が低下するが、昔のレンズでは画質を向上させるためにわざとこれを利用している場合があるようだ。詳しくは昭和時代のお爺さん設計者に聞いてください(^^

=ゴースト(レンズゴースト)=
 ゴーストイメージや反射フレアーとも言う。画角内に強い光があるとレンズ各面に複雑に反射した点像が発生する。絞りの前で発生したゴーストは絞りの形を光源と対称的な位置に作る。実在しない像なのでゴーストと呼ばれる。

=コマ収差=
 コマフレアや単にコマとも言う。レンズの周辺に入射した点光が彗星の尾のように流れて見える現象である。レンズに入射する斜光線による広義の球面収差であり当然周辺にしか発生しない。絞ると斜光線が大幅に制限されるのでコマも減る。広角レンズでは四隅の流れに繋がり非常に気になる収差である。画角が狭いと気にならない。

=ハロ=
 ハローとも言う。収差フレアの事で、主に開放付近の絞りに於いて収差により像のエッジがホヤホヤに滲む現象。全体的に見るとソフトフォーカスのようになる。ソフトフォーカスレンズは意図的にこの収差(主に球面収差)を発生させている。使いようによっては残っていても構わないものである。

=非点収差=
 レンズに斜光線が入ると垂直方向と水平方向でピントの位置が違ってしまう。理想的には点である光線が縦横に変形してしまう事からこう呼ばれる。早い話が乱視であり、まるでブレたように見える場合が多い。収差曲線ではタンゼンシャル(メリジオナル)像面とラジアル(サジタル)像面の二本の曲線で表し、理想的には同一でなければならない両者の実際の隔たりを非点隔差と言う。この収差図に於いて像面の平坦性(像面湾曲)も同時に表現するのが普通である。ボケの量や形にも影響するので非常に気になる収差である。非点隔差はMTFのグラフでも近似的に確認できる。平坦なのも大切だが2つの曲線が離れないのも重要である。

=フレア=
 レンズに入射する強入力の光(主に逆光)により内面反射などで画像全体に薄く光がかぶったようになる現象。当然ながらコントラストを著しく低下させる。レンズの収差による現象ではなく、コーティングの悪さ・鏡胴の設計の拙さ・カメラの内面反射・レンズの汚れ・撮影時の状況で発生するので収差フレアと混同しないように。

=歪曲収差=
 ディストーションと言う。この収差はレンズによる結像画像の歪みを表す。通常はタル型、糸巻型、陣笠型で歪みを表すが、近年は非球面レンズにより名づけようのない形になる場合がある。ピントは正常に結んでおり絞っても決して改善しない。この収差を改善できるのはデジタル処理だけである。なおネット上には湾曲収差と言う人が根強くしつこく居るが全くの間違いなので気を付けよう(^^ 恐らく像面湾曲と混同しているのだろうが何の共通点も無いし意味も通じない。またパース歪を歪曲と混同している人も居るが勿論別で、パース歪はあおりを使用しないと防げない。つまり撮影上の問題でありレンズの責任ではない。


★光学ガラスの基本
 光学ガラスの性質の基本は屈折率(nd)であり数値が高いものが屈折率が高い。低屈折率の光学ガラスはクラウンガラスと呼ばれ、高屈折率のガラスはフリントガラスと呼ばれ分類される。クラウンとフリントの区別はアッベ数が50のところで分けられている。アッベ数(Vd)とは波長に対する屈折率の変位量を定義している。これは光学ガラスの色分散に対する性質を表わし、数値が高いものがより低分散のガラスとなる。つまり高屈折率のフリントガラスと低分散のクラウンガラスという事になる。

 ガラスには屈折率が低いほど硝材内を通る光がより速く伝搬するという特徴があり、本質的に高屈折率のガラスは高分散で低屈折率のガラスは低分散である。そのため高屈折率でしかも低分散といった都合の良いガラスは存在しない。必然的に高屈折率と低分散のガラスを色々組み合わせてレンズを構成しなければならない。製品の場合はこれに加えて価格や加工のしやすさなども考慮しなくてはいけない。そう考えると多種にわたる光学ガラスも何でも使えると言うワケではなく、似通った構成のレンズは各社とも同じガラスを使っている場合が殆どである。

 基本的な事を言えば、屈折率が高くなると光をより強く(大きく)曲げることができるのでレンズの曲面形状を緩くすることが出来る。つまりガラスの屈折率が高いほどレンズの曲面により発生する球面収差の発生量を減らせることになる。そのため設計者が余程おかしな設計をしない限り「高性能ガラスを使えば高性能は必然」という理屈になる。なお有名なトリウムガラスもこの高屈折率ガラスの一種である。