SIGMA DL ZOOM 75-300mm F4-5.6[KAF]編


 シグマの90年代前半のレンズにはZEN仕上げという表面処理が行われている。新品の時には滑りにくく無反射で高級感もあって良いのだが、この塗装が加水分解により経年劣化するのだ。加水分解した塗料は手に付着するくらいのノリ状になり、稀にズームリングの動きも阻害してレンズは全く使用不可能になる。これの除去作業はジャンカーの重要な仕事の一つなのだ(^^

 実は最初に不幸箱の中に入っていたDL3570の作業を行なったのだが、記事にする気が無かったので写真を撮っていなかった。今回記事を書くにあたって新たにZEN時代のSIGMAレンズをわざわざ買ってきた(^^ ちなみにZEN塗装を除去すると完全に元通りに戻るわけではない。絞り表示やレンズ名など表面の一切の印刷が消えてしまい非常にカッコ悪くなるだけでなく、ズームの焦点距離表示も無くなって極めて不便だ。つまり本質的にはこれは修理ではなく、非常に悪い状態から別の悪い状態に移行するだけだ。それでもベタつき状態だと見てくれ以前に使用できないので除去するしか手が無い。


★用意するもの
 以前書いたがXR-7のグリップも同じように加水分解によるものだった。他にもプラスチック系カメラの「グリップがベタつく」などと書いてあるジャンクの殆どがこれに当たると思う。このゴム塗料は経年劣化により各所で被害をもたらしているのだ。この加水分解したゴム塗料の一種はアルコールでほぼ完全に除去できる事が既に判明している。


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 先日入手した家庭用消毒アルコールである。1リッター500円未満なので経済的だ。他のベンジン・シンナー・ケトン類の有機溶剤は止めた方が良い。これらでベタつきが取れたとしても本体も死んでしまう可能性が高い。燃料用アルコールは安いが毒性が心配だ。


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 本来消毒用のため口がスプレー状なのが面倒くさい。これ無しの詰め替え用を販売してくれないだろうか?もちろんもっと安くね(^^


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 拭き取りはこちら。格安のペーパータオルである。筆者はこの手のペーパータオルが非常に嫌いだがこの際だからしょうがない。トイレットペーパーなどチリ紙でやったら悲惨な事になったのでもうやらない。やりたい人はご自由にどうぞとしか言えないが、紙の場合はアルコールと違って大して価格は違わないので止めた方が良いと思う。節約はもっと効果の高い所でやりましょう(^^


★SIGMA DL ZOOM 75-300mm F4-5.6[KAFマウント]
 2017年忘年会の時に268円で入手したレンズである。直進式のズームリングに大きなゴムが巻いてあるので安全地帯(持ってもベトつかない部分)が比較的大きい。除去作業はやりやすい部類に入る。ただKAFマウントの為にEOSやαに比べ絞りリングの分だけ面倒が増える。このリングは非常に凸凹しているのだ。


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 Σのレンズは同じ名前で幾つも種類があるがこのタイプである。価格シールの貼ってあるゴム部分と、ピントリングのゴムが安全地帯となる。ここを持って除去作業を行なうわけだ。


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 伸ばしてみたら下の部分はまだ劣化が進んでいないようだ。ただ劣化は既に始まっているので除去は行なう予定である。一番最後に回すけど。


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 ゴムは外せる限り外すのが基本だ。外したゴムは中性洗剤で洗う。ブラシも使えばゴムの宿命である白化もある程度直る場合が多い。経年劣化しているモノもあり、外す時に下手すると破れやすいので注意。ZEN時代(90年代)のなら大丈夫だと思うが油断は禁物。

 保護フィルターやマウントキャップは着けたまま作業を行なう。フィルターが無ければキャップでも良いがすぐ外れるのでフィルターの方が良い。HJCLでは保護フィルターなどは使わないので捨てるつもりで付けておく。


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 絞りリングもZEN仕上げだ。絞り表示が全く無くなってしまうのが痛いが、KAFならば本体で絞り制御できるので気にしなくても良いと言える。それより凹凸が多くて拭きづらいのが骨が折れる部分。完璧に仕上げるにはリングを外した方が良い。そうでないとリングの隙間がベタついたままだ。溝があるので外してどぶ漬けでも良いかもしれない。

 次は距離指標の窓の周りだ。この辺りはピントリングを回す時に触れてしまうのでかなり困る。拭いているうちに下地処理も一部剥がれてきてしまった。これが剥がれるとマットブラックがテカテカのエンプラ仕上げになるのでカッコ悪い。

 その次はレンズ名が書いてある部分だ。このレンズは銘板が無いレンズだ。レンズ名はここにしか書いていないのに今回の作業で消えてしまうので、除去前に撮影するなりメモしておかないと後でレンズ仕様が判らなくなって泣きを見る(^^


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 最後は被写界深度などが印刷してある本体鏡胴部分だ。面積が非常に大きく面倒な部分である。まだ劣化していない所は取れないので放置。300-200-135-100-75㎜の表示が消えてしまうのが困る。筆者はズーム世代ではなくズーミングでフレームする事は無い。焦点距離はある程度決めて撮るので無いと困る。いや筆者の好みなどどうでも良い。HJCLの定型テストが出来なくなるのが困るのだ。まあカンでやるしかないか。或いはEXIF見ながら手で書くか…それもめんどくせえな(^^;


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 スッカリ消えちまいましたぜ(^^; 表面の印刷は何処にも何にも無し。シリアルナンバーは窪みにシールが貼ってあるだけなので安全だ。ちなみに普通にやれば下地処理は消えないのでマットブラックのままである。この艶消し下地処理だけでも品位は失われないと思う。


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 完成した。ゴムも洗ってキレイになったので一皮むけて愛着がわく。だいたい美しく蘇ったが表示が全て無くなってしまったのでもうこのレンズはシグマとは言えない。謎のレンズとして活躍してもらおう。それにしても何でAFなのに直進式ズームなのか理解に苦しむ。考えられるのは「MFと共用にするため」「部品が余ったから」くらいか。どちらにしてもただのケチという事で片づけられる(^^

 取りあえず焦点距離表示を何とかしなくては。これがないと定型テストが不可能となってしまう。ズームレンズは焦点距離に依って性格が変わるところに唯一の面白さがあるので重要なのだ。